ナイキの新しいシューズの秘密

2018年03月26日(月)10:21 AM

2017年にデビューしたナイキのヴェイパーフライ4.0%というシューズによって、箱根を沸かせた東洋大のOBである設楽悠太選手がマラソンで日本新記録を樹立したことが大きなニュースとなりました。

 

 

このナイキのシューズはいったい何が凄いのか。実はナイキのシューズ開発の裏にこんな研究論文があったのです。

 

https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

 

「マラソン用シューズのランニングエネルギーコストの比較」という感じでしょうか。こちらの論文はナイキとの共同研究になるのですが、コロラド大学のHoogkamerというリサーチアソシエイトの方です。(先生というより研究者なのかよくわかりません)

 

今回はその論文をご紹介いたします。

 

 

まずシューズのソール部分について2つのキーワードが出てきます。

 

 

コンプライアンス(Compliance)

 

コンプライアンスとはある一定の力がかけられたときに起こる圧縮の量のことです。物体の変形のしやすさのことで、コンプライアントな素材は柔らかいということでもあります。

 

レジリエンス(Resilience)

 

レジリエンスとは、変形された物が元の形に戻ることを復元力のことです。

 

 

ある素材もしくは表面がコンプライアント(柔らかい)だが、レジリエントではない(復元力は低い)場合、例えば砂浜などは、ランニングのエネルギーコストは上昇することになります。

 

 

 

ナイキはこのコンプライアント(柔らかい)でありレジリエント(復元力の強い)であるという両方の特性を備えた素材を開発したということのようです。

 

 

さらにナイキはこの新素材に加えて、シューズのミッドソールにカーボンファイバー素材を組み込み、縦方向の曲げ剛性を高めました。他の研究で、この曲げ剛性(longitudinal bending stiffness)を高めたシューズがエネルギーコストを1%減少したこともわかっていたからです。

 

 

 

 

機械によるテストでは、このシューズは既存のナイキのシューズとアディダスのシューズと比較して約2倍もコンプラアント、つまり柔らかいということがわかりました。ただ柔らかいということでなく、機械的エネルギーを大幅に蓄えたということなのです。

 

 

さらにこの新しいシューズはよりレジリエントだったので、エネルギーリターン、つまり力を戻すのが87%だったのです。比較対象になったナイキは65.5%、アディダスは75.9%だったので、その能力差に驚くばかりです。

 

もちろんこれを人間によっても実験しています。参加者は10kmレースで31分、32分を切るような選手たちでハイレベルアスリートでした。実験のプロトコルは、最初は乳酸閾値より下で14、16、18km/hで走れるかどうかを調べ、その後3つのシューズを履いて3種類のスピードで走った時の全員の代謝エネルギー消費率、床反力、乳酸閾値を調査しました。

 

 

その結果は

 

 

新しいシューズでは平均で4%エネルギーコストを低下させたそうです。3種類のランニングスピードにおいて、このシューズはエネルギーコストが4.16で他のものより4.01%低かったのです。

 

 

また新しいシューズで走っているときの床反力のピーク値は高く、ピッチ(stride frequency)は遅く、他のシューズよりも接地時間は長かったということです。足の回転が遅くて、足が地面についている時間が長かったということですね。

 

 

足の接地パターンは、8名がヒールストライクで10名がミッドフットもしくは前足部接地だったのですが、接地パターンでは違いはありませんでした。しかし、新しいシューズでは踵接地のほうが少しエネルギーの節約が大きかったようです。

 

 

人がコンプライアントな表面で走ると、立脚相の間で膝の屈曲を軽減して脚の硬さを増すことによって質量中心を保っており、これによって関節の周囲で働く筋肉の機械的優位性を向上させて、体重を支えるエネルギーのコストを下げているということが、他の研究で明らかになっています。柔らかいミッドソールと硬いプレートを備えたこのシューズは筋出力の産生を必要とするというよりもより不必要となるのかもしれません。

 

 

ということで、機械的なエネルギーのリターンは大幅なコンプライアンス、つまり素材が柔らかく変形する大きさによるものであろうというのが、この研究での見方です。

 

 

以上がナイキのヴェイパーフライ開発を物語る研究論文です。

 

 

ネットを検索してみますと、設楽選手の厚底シューズという表現が目につきます。確かに厚底ですね。

 

 

一方で、高橋尚子さんや多くのアスリートのシューズを手がけた三村さんがこちらで感想を述べています。

 

日本新記録”厚底”vs職人技”薄底”の大激闘

(PRESIDENT ONLINE)

 

 

ナイキはマラソンで2時間を切ることを目標に掲げています。というわけでこのナイキのヴェイパーフライがマラソン界でどのような嵐を巻き起こすかはこれからの楽しみとなっていくでしょう。他社も追随するのか、独自の形を追求するのか、特にアディダスがどのようなシューズを出してくるのかが楽しみです。

 

 

また多くのランナーが履いてみて、合う人と合わない人が出てくるのか、このへんも個人的には楽しみです。このあたりは別の機会に触れてみたいと思います。

 

 

ただし、形だけを真似る製品も出てきたりして、中身が似ても似つかない製品で自分の体を痛めないようにはしたいですね。

 

 

 


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