投手の肩肘へのストレスはどうしたら減らせるか?
日本プロ野球もアメリカメジャーリーグもレギュラーシーズンが終わり、いよいよプレーオフ、そしてナンバーワンを決める季節になってきました。やはりここまでくると選手の気合も違い、見ている方もハラハラドキドキしてきますね。
今年は大谷くんがアメリカで大活躍をしてくれましたが、残念なことに肘の手術をすることになってしまいました。なぜ怪我をする人としない人がいるのか、その違いは何なのでしょうか。
そんな疑問を研究者たちはたくさん調べてくれています。その中で興味を引くものがありましたがのでご紹介したいと思います。
この研究(1)では2010年のシーズンでアメリカのメジャーリーグ先発投手250人を調べました。そのうち肩の手術をしたのが24人、肘の手術をしたのが53人、手首が1人という結果になりました。手術をした人は250人中78人で31%ということですが、けっこう高い数字だと思います。
その投手らがどんな投球のメカニクスをしているかと、それが手術と関係があるかどうかを調べたわけですが、2人の研究者は250人中220人がInverted Wポジションをしていて、215人がアーリートランクローテーションをしているとしました。
結論としては、Inverted Wポジションをとることは手術のリスクとはならないが、アーリートランクローテーション、つまり体が早く開くことは手術に至るリスクが高くなることがわかりました。
Inverted W ポジション
このInveted Wポジションというのは腕を引き過ぎるくらいのポジションで、ここから体を前に回転する直前のポジションです。コーチの感覚としては、そうなると手が頭のほうから離れてしまいやすく、投げる時に肩肘に強いストレスがかかってしまうというのは常識のような感覚です。
体が早く開くとよくないというのは、バッターも打つときに体が早く開くのはダメだと言われます。私も高校野球コーチ時代に外野手の守備練習でノックをしていましたが、打とうとした瞬間に力みすぎると肩が早く開いてしまい、打球がかえって飛ばなくなるのを感じていました。おそらく投げる時も力み過ぎると肩が早く開いてしまうのかもしれません。
それを調べた研究者も、体を回転させて肘が最大外旋位になった時の肘の角度が少ない方が肘へのストレスが低いとしています(2)。
ですからこのInvertedWポジションはあまり関係ないというのは少し驚きでもあります。手術までいたらない投手は無意識のうちに肘をうまくたたんで(曲げて)ストレスを軽くしているのかもしれませんし、そうでない投手が怪我をしているのかもしれません。しかし、この肘をたたむというのも、コーチとしては常識的な感覚かもしれませんが、アメリカではあまり言わないのかもしれませんね。もしくは意外と難しいことなのかもしれません。
DiGiovineら(3)の1992年の研究(日本でも有名なフランクジョーブ博士も含まれていますが)では、投手が打者に向かって足を着いた時点では、肘の高さが低い方が肘へのストレスが低く、逆に高いほうが肘へのストレスが高いということでした。
これは日本のコーチの感覚とは少し違うかもしれません。おそらく日本のコーチは足を着いた時には肘は肩の高さまでもっていくと教えていると思います。私も一時期そう思っていましたが、すぐに現実的ではないと思い直し、だいたいでいいと教えていました。体が回転した時に肩が外旋位にきやければいいと思っていたからです。
この投球フォームで一番印象にあるのが現ソフトバンクホークスの和田毅投手です。彼は大学の時から肘の位置が低く、そのため手が見えにくくなっていたというアドバンテージがありました。この研究からすれば、さらに肘へのストレスが低かったということがうかがえます。
投球のメカニクスとしては、とにかく体を回転させた時に頭から肘が離れすぎない(肘の角度が小さい)ことと、力んで体を早く回転させないことに気をつけていたら、なんとか怪我をしにくい投げ方にはなるということかと思います。
- Douoguih WA, Dolce DL, Lincoln AE. Early Cocking Phase Mechanics and Upper Extremity Surgery Risk in Starting Professional Baseball Pitchers. Orthop J Sports Med. 2015;3(4) 2325967115581594.
- Aguinaldo AL, Chambers H. Correlation of throwing mechanics with elbow valgus load in adult baseball pitchers. Am J Sports Med. 2009;37:2043-2048.
- DiGiovine NM, Jobe FW, Pink M, Perry J. An electromyographic analysis of the upper extremity in pitching. J Shoulder Elbow Surg. 1992;1:15-25.
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